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第3回アフェレシス研修会開催報告

第3回アフェレシス研修会開催報告

研修会実行委員 峰島三千男、花房 規男、山本 健一郎

若手の医師、看護師、臨床工学技士などを対象にアフェレシスに関する基礎的な知識・技術の習得を目的として、実際のアフェレシス機器を用いたアフェレシス研修会を企画し、本年7月3日(金)、4日(土)、5日(日)第3回研修会を札幌にて開催しました。その概要は以下の通りです。

1) 日時:2015年7月3日(金) 17:00~19:30

7月4日(土) 9:00~17:30 (懇親会19:00~21:00)

7月5日(日) 9:00~11:30

2) 場所:東京ドームホテル札幌、札幌北楡病院

3) 参加費: 会員40,000円、非会員60,000円 

(上記費用には、研修費、東京ドームホテル札幌宿泊費(7/3、7/4、2泊朝食込)、7/4昼食、懇親会費を含んでいます)

研修項目

【講義】2015年7月3日(金) 17:00~19:30 於:東京ドームホテル札幌(萩の間)

1. アフェレシス療法の変遷と展望   長崎川棚医療センター 松尾秀徳

2. アフェレシスの基礎原理(膜分離・吸着) 東京女子医科大学 峰島三千男

3. 各治療法と適応疾患   東京大学 花房 規男

4. アフェレシス治療の実際(具体的な処方を含めて)岩手医科大学阿部貴弥

5. アフェレシス関連機器とトラブル対応 北楡会札幌北楡病院 土濃塚広樹

【実技】2015年7月4日(土) 9:00~17:30 於:札幌北楡病院(担当 米川 元樹)

1. 協賛企業による講義(9:00~10:15)

2. 協賛企業の機器を使用しての研修(10:25~17:30、昼休み12:30~13:30)

3. 旭化成メディカル:ACH−Σ(血液浄化装置) :CART

3. カネカメディックス:MA-03(血漿浄化装置) :LDL-apheresis

4. 川澄化学工業:KM-9000(血液浄化用装置) :DF-thermo

5. JIMRO:アダモニターMM6-N (血球細胞除去用装置) :GCAP

6. 東レ・メディカル:TR 55X(血液浄化用装置) :CHDF

※グループ単位でローテーションし、全ての機器を体験していただきました。 終了後、19:00~21:00東京ドームホテル札幌にて懇親会を開催しました。

【グループミーティング】2015年7月5日(日) 9:00~11:30 於:札幌北楡病院(担当 花房 規男)

前日に提示された症例についてグループごとに治療条件等につきディスカッションしていただき、代表者によるプレゼンテーションならびに全員参加のミーティングを通じて、詳細について議論致しました。(「グループミーティングを担当して」を参照)

昨年の第2回までは講義と実技の2日間開催でしたが、参加者から実際の臨床における治療条件の設定方法などについて知りたいという要望が強かったため、今回はグループミーティングを含む3日間の開催としました。

下記アンケート結果にありますように、講義、実技、グループミーティングすべてにおいて参加者全員からはおおむね高評価をいただき、成功裏に終了できたものと自負しております。これも、米川 元樹先生をはじめとする札幌北楡病院のスタッフの皆様方、わかりやすい講義をしてくれた講師の先生方、充実した実習を実施していただいた協賛企業の皆様のご尽力のお陰と感謝申し上げます。来年も同様な内容の第4回研修会を開催致しますので、奮ってご参加いただきたいと存じます。

参加者数:16名

<アンケート結果>

1. 参加者内訳 医師:4名、看護師:1名、臨床工学技士:11名

2. 本研修会を知ったきっかけ? 学会誌:2名、学会HP:8名、職場:5名 、関連書類1名

3. 講義内容について とても満足:7名、満足:8名、普通1名、不満・とても不満:0名

基礎からとても勉強になった。知識の再確認ができた。もう少し時間をかけてそれぞれの講義を聞きたかった。講義内容に若干重複が多少あったので、それをなくすことでより時間をかけて欲しい。看護師の参加を促すためには、治療前後の流れもあるともっとわかりやすいと思う。

4. 実習内容について

とても満足:9名、満足:7名、普通・不満・とても不満:0名

実機に触れることができわかりやすかった。普段使用していない装置に触れられてとても勉強になった。高い意識をもった方々と意見交換をすることができ勉強になった。時間が限られていたので仕方ないが、トラブルシューティングなど治療中のことが聞ければよかった。

5. グループミーティングについて

とても満足:7名、満足:6名、普通:2名、不満・とても不満:0名(未回答1名)

少人数なので発言しやすく、他施設での方法について知ることができ、普段の疑問点を解決できて非常に良かった。活発な討論で学ぶことが非常に多かった。他の適応についても治療法ごとに条件設定の意見を聞きたかった。ディスカッションの時間がもっと欲しかった。経験および知識不足で積極的に議論に参加できなかった。

6. テキストについて

とても満足:7名、満足:9名、普通・不満・とても不満:0名

図や写真が多く、わかりやすかった。とてもきれいにまとめられていて良い。

7. 講義および実習で取り上げて欲しいテーマがありましたらご記入ください。

遠心と膜分離について、治療条件の考え方、スモールグループで各社CHDF組立比較できればよかった

8. 第4回アフェレシス研修会への参加を同僚に勧めたいと思いますか?

勧める:15名、どちらとも言えない:1名、勧めない:0名

9. その他、ご感想やご意見など。

 ・プライミング、装置に関しての細かい点は知識がなく、とても勉強になった。

 ・ディスカッションが意見しやすく有意義であった。

 ・他施設の方とディスカッションする機会が少なかったので大変参考になった。

 ・3日間があっという間だった。東京などでの開催を希望します。

 ・話し合い時間が短かった。多職種であればもっと面白いディスカッションになったと思う。

 ・網羅的に話が聞けて良かった。講師の先生方や参加者も話しやすく、他施設での治療方法などについて情報交換ができ有意義であった。装置組み立てを学ぶことで原理の確認にもなり非常に良かった。腎臓内科医師の立場から患者さんへの説明や他科医師への治療法の説明について意見交換がしたい。

 ・CEとDrとで実技レベルに差があり、実習はレベル別に分けても良いかと思われた。これまで傍で見ていたことを実際に行うととても難しく感じた。機械についてはインシデントの限りなく少ないシステム、checkpointになるとよいと思った。治療条件についてもっと学びたいと思った。

 ・初日に自己紹介ができれば前半のコミュニケーションがとりやすかった。内容しかり高名な先生方とお話しすることができ、アフェレシス業務に対するモチベーションがあがった。

 ・初日に参加者同士で交流できる場があればもっと情報交換できたと思う。

 ・宣伝が不十分。レベルごとに班分けした方がよい。処方(置換液作製方法、P、Kの補正の処方例)について講義にて詳しく知りたかった。

 ・ホテルと研修会会場間の送迎バスがあればよい

講義風景

講義風景

実習風景

実習風景 実習風景

懇親会

懇親会

グループミーティング

グループミーティング

グループミーティングを担当して

花房 規男(東京大学)

 3日目は,今年初の試みとして,グループディスカッションを行った.2日目が技術的な知識を得るという一方,3日目は患者に即した知識を得ることを目的とした内容とした.アフェレシスの2つの柱である技術と医療との融合が図られる企画であったと考える.

 実際のディスカッションについては,5つの治療ごとに1人の症例を提示し,その患者におけるアフェレシス治療についてその条件を考えていくという内容であった.実際のアフェレシス療法における細かい治療条件についてグループ内で検討を加えその結果を発表し,他のグループとディスカッションをするという形式をとった.2日目のグループ研修によって,グループ内でお互い打ち解けた雰囲気になっており,ディスカッションが進んだのではないだろうか.

 まずCARTでは,腹水中へのヘパリン使用の有無についての議論,さらには発熱予防のための治療条件の設定について議論がなされた.ヘパリン使用については,腹水の性状による違いの他,施設による違いが明らかになった.発熱予防対策に関する治療条件の設定,とくに濃縮比との関連について問題提起がなされたが,あまり濃縮比と発熱との関連はみられないのではないかという回答があった.

 DFPPでは,二次膜の選定,アルブミンの使用量についての議論がなされた.患者の状態に応じて二次膜の種類を使い分けるという意見があった一方で,IgG除去を目的とした治療では2A20, EC-20Wを使用すべきという意見があった.補充液については,アフェレシスデバイスマニュアルの早見表を用いるという意見が多かったが,facultyメンバーからデバイスマニュアルの早見表は,その前提条件である二次膜2A20,ドレーン比率 20%の部分廃棄法に限って使用すべきであるという指摘があった.IgG,フィブリノゲンの低下について,治療を行わない方がよい値について質問があった.エビデンスはないものの,VRADでは,治療前フィブリノゲン100mg/dl未満となった場合には,治療を延期するというプロトコルであることが紹介された.

 CHDFについては,透析液流量,補液流量について議論となったが,各施設ともそれぞれの都道府県別の保険適用上限が目標値となるという意見が大勢であった.また,カリウム・リンの低下についても注意喚起がなされた.

 GMAについては,アクセス,抗凝固剤,治療頻度・回数が問題点として提起された.アクセスについては,脱血不良をしばしば経験するという施設が多くみられた.その中で,シングルニードルが有用・有効であるということが紹介された.また,治療に先立って,適切な量の輸液を行うことも紹介された.抗凝固剤については,ヘパリンを使用するという施設もみられたが,下血がある場合には,メシル酸ナファモスタットを使用することが望ましいという意見があった.治療の頻度については,週2回で開始し,その後週1回に減量するという施設が複数みられた.

 LDL吸着療法については,アクセス,治療量,プライミング時のメシル酸ナファモスタットの混注について議論となった.アクセスはできるかぎり末梢静脈を使用するという意見.治療量については,アルブミン濃度を考慮し,低アルブミン血症では治療量を減少させるという意見があった.プライミング時にメシル酸ナファモスタットを生食に混注すると,急速に静注されることに関する懸念が提示されたが,近年,血液透析等も含めてプライミング時にはナファモスタットを混注しない施設が多いことが明らかになった.また,LDL吸着療法においてもフィブリノゲンの低下が問題になるのではないかという質問があったが,一般的には臨床上問題となる低下は多くはないのではないかという意見があった.

 全体を通しての質問として,メシル酸ナファモスタットの調整法,吸着療法についてアンジオテンシン変換酵素阻害薬をいかに使用しないよう受持医に徹底するかなどといった医療安全に関する議論がなされた.

 このように今回のグループディスカッションを振り返ってみると,アフェレシスに関する様々な話題について,参加者,facultyメンバー,さらには参加してくださったメーカーの方も含めた,幅広い議論を行うことができた.

 アフェレシス療法は難病,特に希少疾患を対象とすることが多い治療法である.院内での連携を深め,アフェレシス療法への敷居が低くなることも重要である.一方,今回のように施設を超えたディスカッションを行うことで,各治療法による疑問点・問題点が共有され,より安全・確実なアフェレシス療法を行うことが可能となることが期待される.施設を超えたつながりが今回の会から広まっていくことが,アフェレシスの発展にもつながることが期待される.来年以降も,今回いただいたアンケートの結果をもとにして,よりよい形でグループディスカッションを継続していきたい.